ゴミ屋敷問題において、最終手段としてしばしば言及される「強制退去」と「行政代執行」。この二つの言葉は混同されがちですが、その法的根拠、対象者、そして目的は全く異なります。この違いを正しく理解することは、問題解決へのアプローチを考える上で非常に重要です。「強制退去」は、民法上の「賃貸借契約」に基づく手続きです。対象となるのは、アパートやマンションなどの「賃貸物件の入居者(借主)」です。ゴミ屋敷化によって、貸主である大家さんとの信頼関係が破壊されたと裁判所が判断した場合に、大家さんの申し立てに基づき、裁判所の執行官が強制的に入居者を退去させ、物件を明け渡させます。つまり、これはあくまで貸主と借主という、私人間の契約トラブルが根拠となっています。一方、「行政代執行」は、「空家等対策特別措置法」などの行政法規に基づく行政処分です。対象となるのは、主に「持ち家の所有者」です。その家がゴミ屋敷と化し、「著しく保安上危険」あるいは「著しく衛生上有害」な状態となり、公共の福祉に反すると自治体が判断した場合に行われます。自治体が所有者に代わって、強制的にゴミを撤去したり、建物を解体したりするのです。その目的は、個人の財産権の行使というよりも、近隣住民の安全や公衆衛生を守るという「公共の利益」の確保にあります。手続きの主体も異なり、強制退去は裁判所が関与する司法手続きですが、行政代執行は市町村などの行政機関が主体となって行います。このように、賃貸か持ち家か、誰が何のために行うのかによって、適用される法律も手続きも大きく変わってくるのです。