ゴミ屋敷問題の背景には、単なる「だらしなさ」や「ズボラ」といった性格の問題ではなく、「ためこみ症(ホーディング障害)」という精神疾患が隠れている場合があります。これは、アメリカ精神医学会の診断マニュアル(DSM-5)にも記載されている正式な病気であり、意志の力だけではコントロールが困難な状態です。もし、あなたやあなたの家族がゴミ屋敷で悩んでいるなら、医学的な基準に照らし合わせてみることで、問題の本質を理解し、適切な対応策を見つける一助となるかもしれません。「ためこみ症」の診断基準で最も核となるのが、「実際の価値に関わらず、所有物を捨てること、手放すことが持続的に困難である」という点です。他人から見れば明らかなゴミであっても、本人にとっては「いつか使うかもしれない」「思い出があって捨てられない」と感じ、モノを捨てる行為自体に強い苦痛や不安、悲しみを伴います。第二に、その結果として「モノをため込む必要性が生じ、生活空間がモノで占拠され、本来の用途で使えなくなってしまう」状態です。寝室で眠れずリビングで寝ていたり、キッチンで料理ができなかったりするのは、この基準に該当します。第三に、このためこみ行為が「社会的、職業的、またはその他の重要な領域において、臨床的に意味のある苦痛、または機能の障害を引き起こしている」ことです。例えば、不衛生な環境で健康を害したり、家族関係が悪化したり、人を家に呼べず社会的に孤立したりする状態がこれにあたります。そして最後に、その症状が他の精神疾患(例えば、統合失調症の症状など)ではうまく説明できないことも基準の一つです。この病気の特徴は、本人に「病識(自分が病気であるという認識)」がないケースが多いことです。そのため、周囲が無理に片付けようとすると、激しい抵抗に遭うことも少なくありません。これは意志の弱さの問題ではなく、専門家による認知行動療法や、場合によっては薬物療法が必要な「病気」のサインかもしれないのです。非難や叱責ではなく、まずは医療機関や専門の相談窓口に繋がるという視点が、解決への重要な鍵となります。